テープ起こし業界への最後の恨み言

最近、テープ起こしの案件がめっきり来なくなりました。
一応まだ繁忙期ではあるので、これは確実に「私が会社にとって、ワーカーとして頭数に入る人間ではなくなった」ということなんでしょう。まあ、仕事を断っては長期休みを申請し、私自身がそう仕向けた感じもあります。もう既にパソコンからフットペダルの接続外しちゃってますしね。最後に仕事を打診された時は、もう「うっわ来やがった。面倒くさい、やりたくない」という感情しかありませんでした。
 
数千円のフットペダルを買い、数千円の音声再生ソフトを買い、1万円超えのスタジオヘッドホンを買い、数万円かけて通信講座を受講し、本も何冊か買ってスキルアップを目指したあの情熱は、もう私にはありません。まあ、初期投資に対してはもう元は取ってると思うので、特に後悔はないですが。ただ、フットペダルと記者ハンドブック、標準用字用例辞典については、我が家で腐らせておくのも勿体ないので、どなたかにお譲りしたい所です。
会社に契約解除を申し出るかどうかずっと悩んでいたんですが、そうしなくても会社側が私の存在を忘れてくれるなら、別にいいか。
 
もう何度も書いてますが、この仕事のキツイ所は「本業にするには案件が不安定すぎ、副業にするには手間がかかりすぎる」ということです。
どうせもう業界を実質離れているということで、「この業界、ここがダメだった」と思う点を、書き殴っていきたいと思います。ほとんどの読者さんには関係ないことと思いますが、「こんな業界もあるのか」ということで読んでもらえたらと思います。
 
とにかく知ったかぶりの適当書いたサイト・ページが多すぎる
テープ起こしの「解説」に物申したい でもちょっと書きましたが、自分でやったこともないのに、ちょっと調べただけの情報をドヤ顔で披露してるサイトの多さ。私のように、専門業者と契約して案件をもらうワーカーがいるとか、専門業者がスタッフを自社養成してる場合があるとか全然調べずに「案件はクラウドソーシングで獲得するのが一般的で、1時間の音源が3000円くらいの案件があるので、3時間で仕上げると時給換算1000円になりますね」とか平然と書いてますからね。ちなみに、「1時間の音源を仕上げるのに、一般的に3~6時間かかると言われています」とかも書いてありましたが、私が通信講座で買ったテキストには「音質がよくて専門用語もないスムーズな場合で、1時間の音声を起こすのにかかる時間は平均5~8時間」との記載です。私の場合、納品まで仕上げるのにかかる時間は音源の10倍でした
(余談ですが、そのテキストを作成した団体、今調べてみたら潰れてたようです……)
 
あと「パソコンとイヤホンさえあれば月に何万も稼げる」と平然と書いてあるページ。
テープ起こしは結局は設備と機材。 で書きましたが、私はこの仕事でちゃんと稼ぐために、上に書いた機材やソフトを全部買いましたよ。動画を起こしやすくするためにExpress Scribeを何度も数千円出して買い、表記チェックを時短するためにATOKを買い……。
まあ、たまたま営業が上手で、クラウドソーシングで元手0で始め、そのまま稼げるようになった人もいるにはいると思いますが、かなりのレアケースでしょう。恐らく私のような、専門業者とワーカー契約するよりも狭き門だと思います。なにせ、時給数十円レベルの激安単価の案件でも何十と希望者が来ますからね、あそこは。しかも、一度請けた仕事については第三者から記録が見れるので、激安単価を「この報酬でやってくれる人だ」と判断される可能性が高く、そこから報酬単価を上げていくのはかなり難しいと思われます。
 
ただ、こういった「知ったか情報」がなぜ増えるかって、一番の理由は「これを取り上げるとアクセス数が稼げるから」でしょうが、何より「業界人からツッコミが入らないから」というのも大きいと思うんですよ。私、業界の末端も末端でしたが、こういった情報を目にする度に「何で業界人が誰もこれを批判しない!?」とイライラしたもんです。
 
その理由を考えた時、私はこの業界を諦めました。
つまり、テープ起こし会社側は、ワーカーの待遇についてどんなに誤った情報が氾濫していても気にしない。自分たちの契約ワーカーには関係ないから。そもそも、ワーカーの作業環境なんてどうでもいいから目に入らない、というのもあるかもしれない。会社にとって重要なのは「ワーカーが高品質な原稿を納品してくれるかどうか」であり、そのための作業環境は「ワーカーが勝手に(自腹で)整えるべきもの」なのです。
ワーカーは自分自身についての待遇しか目に入らない。見も知らない駆け出しワーカーが、どんな低報酬でこき使われようと関係ないから。
こういったスタンスなので、「まだテープ起こしを始めたばかりの素人が、いい加減な情報を載せるサイトに騙されて苦労して辞めていこうと、興味がない」ということなのだろうと。仕事の特性上、口外できない情報が多く、苦労話や愚痴が広まらないから、というのもあるとは思いますが。私自身、ここまで書いても結局、契約先の社名も報酬単価も、機密保持契約により書けない状態ですから。「会社が都合よくワーカーの口を封じるのに適した業務環境」が、図らずも揃ってしまっているんです。
 
それは、企業の求人募集ページを見ても明らかです。
ほとんどの企業が募集時点で報酬単価を出しません。報酬どころか、「スタッフ募集中。詳しくは問い合わせて!」で済ます企業もざらです。しかも「(電話で問い合わせて来られると業務の邪魔になるから)メールにしてね」という企業すらあります。
応募者にはもれなくトライアルをやらせて実力を測るんだから、報酬を事前に提示するのに何の支障があるのか
あるいは、「応募者に求める資質・心構え」だけ列挙して終わる募集ページもありました。「これだけの覚悟を持って応募してきてね」の後に「それでトライアルに受かって採用したら、これだけの待遇を用意しますよ」とは続かないのです。これでも、一度募集すれば応募者が殺到するから十分なんでしょう。
 
私は前に契約していた会社、見事にこれで辞めました
業界としては珍しく、タイピングと読み書きのテストだけで実務テストはなかったのが、今となっては良かったのか悪かったのかわかりません。テストに合格し、契約が決まって初めて報酬を示され、それが激安単価だということにも気付かず、そのまま契約しましたが、結局は1年もたたず、「報酬単価が安すぎる(作業時間と報酬が釣り合ってなさすぎる)」という理由で契約解除を申し出ることになりました。システム自体はとても良心的な会社だっただけに、今でも残念に思います。
「もう少しやってみたらちょっと単価を上げようか」と言われていたものの、どのくらい上げてくれるかは明かされず、「報酬があまりに安くて、やってられないから辞める」と申し出た時にも「じゃあもう少し出すから」と引き留められることもなかったので、恐らくあの会社にとって私は「役立たず」だったのでしょう。
 
そして、これは業界内の話にもつながりますが、「テープ起こし専用のツールやソフトがなさすぎる」
私が使っていた中で「恐らくテープ起こし専用に開発されたものだろう」と推測できるのはExpress Scribeという音声再生ソフトだけです。フットペダルは何でも使えるでしょうし、スタジオヘッドホンは音楽関係者に向けて販売されているものの流用です。ATOKは記者やライター用のものを流用しているだけだし(記者ハンドブックに記載されている「言い換え」はテープ起こしでは厳禁です)、原稿を納品するWordにいたっては、パソコンのデフォルト機能です。「標準用字用例辞典」は、まあ議事録作成用のものなので専用と言えるか……?
 
私は常々「テープ起こし専用のテキストエディターが出ないかな……」と思っていました
テープ起こしには「話者立て」という「発言者の区別表記」が不可欠なんですが、「話者立てと本文では表記ルールが違う」は当たり前で、案件によっては「話者立てはゴシック体、本文は明朝体で」なんて、面倒この上ない指定もあります。Wordにそこまでチェックしてくれる機能があるわけもないので、その全てはワーカーが目視で確認しなければなりません。(逆にWordには、表や図形の挿入など、テープ起こしには絶対必要にならない機能がたくさんあります。)
これについては、前の会社はまだ良心的でした。数字・アルファベットは全て文字色が変わるようになっており、数字やアルファベットだけをチェックする時に目に付きやすい工夫でした。
こういった細かい、しかし必要な作業を簡略化するためのツールが、私がこの仕事に従事していた約4年の間、まったく開発されませんでした。
 
これには、会社側の問題と、そしてワーカー側の問題があると思います。
まず会社側の事情としては、「表記を最終チェックするのは校正ワーカーであり、社員には関係ないから」ですね。校正ワーカーさんはワーカーとしてのベテランがなるので、もはやチェックするのが習慣化しており、疑問にも思わないのでしょう。
ワーカー側の問題としては、新規参入する人は上に書いた知ったか情報サイトなどで興味を持って業界に入るので、「テープ起こしは元手なし(せいぜいパソコンとネット回線、あとイヤホン代だけ)で稼げるもの」という意識が根底にある。なので、そういったソフトやツールが開発されたとしても、わざわざお金を出して買わない。開発費の回収が見込めなければ、ソフトやツールを作ろうと思う人も団体も出てこない。
そういった補助ツールを独自開発している会社もあるかもしれませんが、自社の契約ワーカーにしか使わせない時点で、業界の問題としては変わりません。
 
こうして考えてみると、やはり業界全体が閉鎖的であり、ワーカー全体の待遇改善を目指す存在がいない、というのが大きいんでしょう。「文字起こし技能テスト」では900点以上取れば協賛企業に紹介してもらえるそうですが、どんな待遇での紹介なのかまでは書いてなかったし、「ハイスコアだったら分単価○○円出します」という募集をかけてる協賛企業も見かけないので、状況は変わらないな。
 
いろいろと思い付くままに書き殴ってみましたが、これでも4年くらいの間頑張っていた業界のこと、多分また後から書きたいことが出てくると思います。
多分、ここにぶちまけている内容の中にも、会社としては「口外すんなって契約だろう!」となる事項があるんでしょう。しかし、問題点の指摘もできないような業界なら、どのみち未練はないですね。もしも損害賠償請求が来たら、手元にある金を売ったお金から払うとしよう(最近、金相場がまた高騰しております)。
その場合、テープ起こしで稼いだお金の何倍が請求されるんだろうな。

コメント

  1. 匿名すみません より:

    こんにちは
    3児の母で、今は地方で事務職パートタイムで働いています。通勤が辛く、地方でも出来るテープ起こしに興味を持って調べていたところこちらのブログに出会いました。とても参考になります。契約的にお話出来ることも少ないと拝見して知りましたので、ブログをこれから隅々読み漁ります!テープ起こしのデメリット等詳しく記載されているサイトも少なかったので、書いて頂きありがとうございます。

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