集められた名探偵・2

続いて「黄昏の館」パートです。
本編に入って、まず驚いたのが、後部座席のコナンがシートベルトをしてなかったことでした
調べてみると、この話の初回放送が2001年、シートベルトの全席義務化が2008年でした(運転席と助手席はもっと早く義務化されてます)。

いやー、時代は変わりますね。
 
ということで進みます。
これは何かの構文かもしれないんですが、「初対面の女性を前にして、随分なご挨拶だね」が「Well now, that certainly is one way to greet a woman that you've only just met.(まあ、確かに会ったばかりの女性への挨拶ではあるわね、みたいな?)」になってたのは気になった。
「随分なご挨拶だね」って、普通はそれこそ初対面の他人にかける言葉ではないと思うので、これ千間さんとしては、かなりはっきり「失礼だなお前」って言ったセリフだと思うんだけど。小五郎も謝ってますし。
……と思いながら「随分なご挨拶」と検索してみたら、恐らくAIの要約で「相手の印象が非常に好印象であることを示せる敬語表現」って出てきたので、「あー……」ってなった。確かに「随分なご挨拶」って、シチュエーションによっては、本気でお礼を言う表現にもなるか。
もしかして、私たちがナチュラルに丁寧表現と皮肉を使い分けるのは、実はかなり高度な言語テクニックだったりするのかな。
 
そして「神が見捨てし仔の幻影」について。
「人偏を添える仔という字は獣の子どものこと」が、「The word "child" in the sentence refers to the younger form of an animal.(この文章における「子ども」とは動物の若い姿のことを指している)」と、かなり変えられています。まあ、普通に考えて「人偏」とか英語にはないですよね。ただ、そのせいで「なぜそうなるのか」の説明をすっ飛ばす結果になっていました。
「ほら、仔犬とか仔馬とかに使うでしょ?」は「See, dog becomes puppy and horse would be colt.(ほら、犬はpuppyに、馬はcoltになるでしょ?)」となっていますが……元の話が漢字についてのものである以上、ここは英語で何を言っても意味はないので、そのまま直訳することにしたんでしょうかね。
 
そして、「Kid The Phantomthief」という名が出た後の、コナンのモノローグ。
「何を考えてるかは知らねーが、欺き通せるかな?ここに集結した7人の探偵を」が、「I don't yet know what he's up to, but I wonder how long he can continue deceiving the seven detectives all gathered here.(彼が何をしようとしているか、オレはまだ知らないが、彼がここに集められた7人の探偵全員を、いつまで欺き続けられるか疑問に思っている)」は、ちょっと意外でした。
いや、私、これはコナンが心中でキッドに「お前、ここに7人も探偵いるけど大丈夫か?」と、語りかけてるモノローグだと思ってたんです。なので、キッドを「he」と客観的に表するモノローグにしたことは、ちょっと印象が変わりましたね。
 
で、この話において私が「うっわ難しい」と思った第1弾は、これです。
千間さんの「船頭が多いと船が沈むよ」と、それに対する白馬の「確かに、ファントムシーフならぬファントムシップになりかねませんね」。
これ、英語では「too many captains will sink the ship.」と「True. And wouldn't it be ironic if instead of arresting a phantom thief, we all went down on a phantom ship?」になっております。千間さんのセリフは「多くの船長は船を沈める」なのでそのまま。白馬の方が「確かに、怪盗を逮捕する代わりに幽霊船と沈むなんて皮肉ですね」……アレンジというほどでもないかな。
何が難しいって、この千間さんのセリフが「船頭多くして船山に上る」のことわざをもじった警告なんですよね、多分。
ご存じの方も多いと思いますが、「船頭多くして船山に上る」とは「船頭、つまりリーダーが何人もいると、本来水上を進むはずの船が山に上るという、わけのわからないことが起こる。つまり、チーム全体が方向性を見失う」という意味です。
ただ、この場合は既に大神さんが殺されており、車もほとんど潰されているため、千間さんは警告を込めて「全員死ぬような事態を招くぞ」という意味で「船が沈む」と表現している。それを受けて白馬は「船が沈むということは、幽霊船になってしまうね」ということで「ファントムシーフ」と「ファントムシップ」の音をかけているわけですが。
つまり、このやり取りは「日本語のことわざをもじった警告に、英語のシャレで返す」となっているわけです。これは難しいでしょう、翻訳。
 
実は英語にも似た意味のことわざがあり、「Too many cooks spoil the broth(料理人が多すぎるとスープがダメになる)」というものでした。
しかし、この場合は置き換えることはできません。「スープがダメになる」をどういじっても、命に関わる事態にはならない。そして、「船」という要素が出ていることから白馬がそれを「幽霊船」にして返しているので、料理をからめることができない。
翻訳担当の方が「船頭多くして~」をご存じだったかどうかはわかりませんが、たとえご存じだったとしても、これは直訳するしかなかったでしょう。
 
だいぶ飛んで、小五郎が茂木に撃たれるシーン。
「疑わしきは罰せよ」と茂木が言いますが、これは元々、刑事裁判の原則として「有罪が確定するまでは、被告人を無罪として扱う」という意味で「疑わしきは罰せず」という言葉だったのが、なぜか真逆の意味で派生してしまった言い回しです。こちら、吹き替えセリフでは「It's nothing personal. Shoot first, ask questions later, right?」。
It's nothing personal.→個人的な恨みはない、悪く思わないでほしい、という言い回しらしい。
Shoot first, ask questions later→これも構文のようですが、ちょっと「日本語ではこんな感じ」という言い回しがわかりませんでした。「やられる前にやれ」と訳しているサイトは発見しました。
それぞれ英語にしたニュアンスに合わせて、文章の順序を逆にした、って感じですかね。
 
あと、「うっわ難しい」第2弾が、これでした。
「宝の暗号は解けた」→THE TREASURE'S CODE HAS BEEN DECIPHERED.(宝の暗号は解読された)
「直接口で伝えたい」→I WANT TO TELL YOU DIRECTLY.(直接教えたい)
「食堂に参られたし」→COME TO THE DINING HALL.(食堂に来てくれ)
この「COME TO THE DINING HALL.」が、すごく気になりまして。
これ、文章がComeという動詞から始まるところから私は「命令文?」と思ったのですが、翻訳サイトに入れてみると軒並み「来てください」となりました。しかし、そこから再翻訳すると「Please」がくっつくのは、どういうことなんだろう。命令、要請、お願い、どの辺りのニュアンスなんですかね。
 
で、この「参られたし」は、日本語としても解釈がすごく難しい。
私のパソコンはATOKを入れているので、言葉を入力して変換しようとすると「記者ハンドブック」に基づいて注意が出たりするんですが、変化前の「参られる」が、検索しようとするとこうなりますからね。

さらに変化前の「参る」が、謙譲語という「自分の言動を相手に対してへりくだる表現」なので、厳密に言うなら「元の日本語の言い回しが間違っている」。
ただこれ、個人的には「探偵の先輩としての千間さんへ、コナンが最低限の敬意を表して、たとえ日本語として間違っていようと、かしこまった言い回しで呼び出しをかけた」とも受け取ることができると思うんです。「来い、来てくれ」より「参られたし」の方が格好がつきますから。
とはいえ、単に「多忙な作者さんが、うっかり謙譲語の使い方を間違えた」という可能性も普通にあるので、やっぱり解釈が難しいと思います。
 
ということで、遅くなりましたが、一通り感想を書いてみました。
正直、さらに文章量が倍になりそうな細かいポイントもあったんですが……さすがに疲れるので、やめておきます。
実は他にもメモってたエピソードがあるにはあるんですが、まとまらなさそうなので、ひとまずCrunchyrollの英語吹き替えについての感想は、一休みしようと思います。

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